雪の足跡《Berry's cafe版》

 ホテルに宿泊すれば無料になるシャトルバス。新宿を発着点に浦和を経由してスキー場に向かう。八木橋は多分、往復の運転を心配してバスを利用して来い、と言いたいのだと思った。ずっと欲しかった“来い”の一言。


「だったら素直に言えばいいじゃない」
「うるせえ。ユキこそ……」
「何?」
「ヤギせんせじゃなきゃイヤとかお嫁さんにしてとか、菜々子ちゃんの方が甘え上手だよな??」
「6歳児と一緒にしないでよ、ムカつく」


 そんな下らない会話ばかりで、結局八木橋は誕生日も血液型も出身校も好きな色も教えてはくれなかった。翌々週にスキーに行くことだけを約束する。翌週はお彼岸。お墓参りも来客もある。八木橋は再び私の体に沢山のアザをつけてベッドから下りた。

 八木橋を大宮駅まで送り届ける。降りる前にキスをする。何の戸惑いもなく、助手席から身を乗り出して運転席のシートに手を掛けて軽く唇を当てた。そして、何かあったら電話しろよ、と言って車を降り、板とブーツを担いで構内に消えて行った。

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