雪の足跡《Berry's cafe版》

 母がなかなか戻って来ない。和室から玄関を覗くと、何やら大きな封筒を押し付けあい、話をしていた。廊下に首を出した私に気付いた父の知人が咳ばらいをし、母は仕方なさそうに封筒を受け取る。知人は母と私に挨拶をすると玄関から外に出た。


「母さん?」


 母は、なんでもないのよ、気にしないで、と言いながら封筒を母の部屋に置きに行った。
 母が和室に戻り、今度は皆で行ったスキー旅行の話題になる。久しぶりのスキーで数日後に筋肉痛が出ただの、またバイキングが食べたいだの、そんなことを話す。また出掛けようか、ゴールデンウイークはどうだろう、今度は海に行くか?、と盛り上がる。


「ユキちゃんも一緒にどう?」
「こんな年寄り連中の世話ばかりさせたら可哀相よ」


 叔母達が私に話し掛ける。ゴールデンウイーク、私は何をしてるだろう。父が生きてた頃は最後のスキーに出掛けてた。


「若いもんは若いもん同士か。彼氏がいるのかい?」
「……えっ」
「ユキは父さんと同じでスキーばかりで。浮いた話のひとつも無くてねえ」


 三十路を目前に困った娘だわ、どうせゴールデンウイークも春スキーでしょ?、と母はフォローしてくれた。
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