雪の足跡《Berry's cafe版》

 お彼岸の明けた翌週、私は八木橋のいるスキー場に来た。八木橋が部屋の代金を支払い、シャトルバスの手配もしてくれた。駅まで母に送ってもらい、5分遅れでやって来たバスに乗り込んだ。


“雪も減ってきた。そろそろクローズだな”


 八木橋は毎日メールをくれる。晴れた日にはゲレンデから見える湖面の画像を、雪の日には吹ぶく冬木立の画像を添付してきた。週末には電話もした。相変わらず、早く寝ろ、とか、腹出して寝るなよ、とか馬鹿にする台詞ばかりで付き合い始めたばかりの恋人達が吐くような甘い台詞はなかった。

 暖房の効いた車内、窓からの日差し。ぼーっとする。普段は運転するだけに手持ち無沙汰で更に朦朧とする。出発前に暖を取るために買ったコーヒーを飲む気にもなれず、途中にトイレ休憩に寄ったサービスエリアでスポーツドリンクを買って飲んだ。

 昼過ぎに到着したスキー場で板を履き、滑る。もう店じまい間近のゲレンデはあちこち土が剥き出しになって春を知らせている。八木橋はスクール小屋の前で3歳位の男の子に板の履き方から教えていた。八木橋は私に気付くとストックを上げて挨拶をした。私も同じくストックを上げる。

 半日券を買って滑ってはいたけど、バスに酔ったのかフラフラと足元がおぼつかず、早めに上がった。フロントで名前を言い、チェックインする。ツインの部屋でベッドに寝転がる。欠伸を連発して、そのまま意識が落ちた。
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