雪の足跡《Berry's cafe版》

 ドアをノックする音で目を開ける。窓から入るぼんやりとした明かりでドアに向かうと、もう一度ノックする音が聞こえた。小さなレンズから廊下を見ると八木橋が立っていた。私が1時間でゲレンデを出たことに気付いていて、具合が悪いのかと気遣ってくれる。

 八木橋の車でホテルを出る。麓にあるイタリア料理の店に連れて行かれた。寝過ぎたせいか、がっつり食べる気分でもなくて、いつもとは違うタイプを注文した。トマトとバジルのパスタ、シトラス系のジェラート、炭酸水。


「どした?」
「何が」
「いつもは牛乳三昧だろ?」


 いつもはクリームパスタ、チーズケーキ。


「たまにはね」
「雨、降るだろ」


 スキー場が早く閉鎖するだろ全く、と八木橋はクスクスと笑った。いつもの八木橋。こないだ自分からせがんだことを思い出した。顔が熱くなる。


「ユキ?」
「……なんでもない」


 八木橋は突然、真顔になった。


「な、何よ。私の顔に何か付いてる?」
「いや」
「見とれてる訳?」


 まだ真顔で、不安そうに私を見る。何かまたからかうつもりだろうか。


「……アホ」
「アホって、私の名前はアホじゃないわよ」


 注文した炭酸水が届き、グラスの縁に飾られたレモンをぎゅうっと絞る。
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