雪の足跡《Berry's cafe版》

 三度リフトに乗る。私が先に滑る。後ろから八木橋が怒鳴る。同じことを何度も注意される。頭では分かっていてもすぐには体が言うことを聞かない。リフトを下りると八木橋がまたシュミレーションする。同じ事象を違う言葉を使って説明する。なんとか私に理解させようと必死なのは伝わってくる。ユキ行け、と言われて滑る。怒号が飛ぶ。返事をする。リフトに乗る。滑る。怒られる。八木橋が説明をする。しばらくその繰り返しだった。

 八木橋が一生懸命なのはヒシヒシと肌に伝わる。でもその通りに出来なくてもがく。同じ台詞で何度も何度も怒鳴られる。分かっていてもちゃんと実践出来なくて、情けなってくる。


「全く何度同じコトを言わせるんだ! 内股!!」
「は……い……」


 ゴーグルの中で水滴が頬を伝う。出来ない自分に悔しくて、八木橋の怒鳴り声が怖くて、泣いていた。斜面を滑り下り、リフト乗り場に並ぶ。泣いてることに気付かれないよう、食いしばるけど鼻水が垂れる。肩もしゃくり上げてしまう。リフトのシートに二人で越しかけ、鼻を拭くふりでティッシュを出す。でも震えが止まらなくて、シートが僅かに揺れてるのが自分でも分かった。気付かれたと思う。


「もう1本滑ったら休むか」


 八木橋はそう言って私の頭を撫でた。グローブ越しのゴソゴソした手。私の帽子の中は静電気が立ってもわもわした。懐かしい感触。そういえば父にもこんなふうに撫でられた。


『ユキ、頑張ったね』
『偉いよ、ユキ』


 いつも優しかった父。私には絶対に怒らなかった。父との思い出が走馬灯のように浮かび上がる。初めて板を買ってもらったときのこと、転んで拗ねた私を宥めるのに一緒に雪だるまを作ってくれたときのこと、大会で入賞したときすごく喜んでくれたこと。亡くなった父を思い出して、涙腺が緩んでいた私は更に涙腺が緩んで涙が止まらなくなった。しゃくり上げる。

 リフトを下りる。斜面に向かう。すると八木橋は私を追い越して前に立ちはだかった。

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