雪の足跡《Berry's cafe版》
そして私の板を挟むようにして、私の体に近付いた。
「大丈夫か? 下りられるか?」
父もよくそうした。転んだ私を起こして、正面から私に近付いた。肩に手を置いて顔をくっつけておでこをくっつけて。大丈夫だよ、と語りかけるように微笑む。私を安心させる。八木橋も私の顔を覗き込む。深いグレーのゴーグル面から彼の目が見える。心配そうに見つめる瞳。八木橋の吐く息が白くて、私の息も白くて、目の前でぶつかり合う。
「……」
目の前にある八木橋の顔。あまりにも近くて。父でない男の顔に突然気が付いて動転した。
「だ、大丈夫だから……」
近い距離に落ち着かなくなる。私は俯いた。傾いた帽子のてっぺんについた毛糸のポンポンが八木橋のゴーグルに当たる。別に何かされる訳じゃない。きっとゴーグルの中の私の表情をうかがってるだけで。私だって男の人に免疫がない訳じゃない。初めてじゃないけど、至近距離に構えてしまう。
「……行くよ。ついておいで」
八木橋はストックを押してバックしUターンすると斜面を滑り始めた。私も跡を追う。先を走る八木橋は、行き先をコントロール出来るようになった初心者のように板先をハの字にして速度を抑えている。山肌をなぞるように滑る。八木橋は時折止まって振り返り、私の位置を確認した。そして再びゆっくりと私を先導する。
中腹にあるロッジレストラン。昨日ケーキを食べたところ。板を外しワイヤー錠を掛ける。八木橋が階段の先で待っているのが見えた。一段一段上る。私が近付くと扉を開けてくれた。中に入るとゴーグルが白く曇った。白い筈の画面が暗くなり、接面が肌から離れる。そこから光が入る。
「危ないだろ」
「や……」
八木橋が私のゴーグルを外そうとした。私は咄嗟にその手を払いのけた。