雪の足跡《Berry's cafe版》

 少し、肩に入れていた力が抜けたのか自然に息を吐いた。抱えてる不安はまだまだ山程あるけど、てっぺんの尖った頂だけはポキッと取れた気がした。私がため息をついたと思ったのか母が心配する。


「ユキ、ひとりで抱えてたの? 八木橋さんにはまだ知らせてないの?」
「……知ってる」


 知ってるというか、あっちが先に気付いた。


「八木橋さんは何て?」
「落ち着かないみたいだった。多分、喜んでるんだと思う」


 そう、八木橋さんはお子さん好きそうよね、と母は言った。

 直に自宅に着き、まずは仏壇の父にただいまの挨拶をする。手を合わせながら赤ちゃんが出来たことを報告した。順序が逆になって父が八木橋を怒ってないか不安になる。遺影の父は優しく笑ってて、喜んでるように見えた。母も線香に火を点し、父に手を合わせる。


「大丈夫よユキ。きっと父さんも喜んでるわよ」
「……うん」


 母は夕飯の支度をするためにキッチンに行った。私に、食べたいものある?、食べたくないものとかあるなら言って頂戴、と冷蔵庫を開けている。私はさっぱりしたものがいい、と答えた。

 持ち帰った荷物を片付けながら2階の部屋に戻る。さっき買った本をペラペラとめくる。最終月経から予定日を計算するやり方が載っていて、自分に当て嵌めてみた。ストレートに計算すれば出産予定日は11月末。でもあの日に出来たとすれば排卵日も遅れてた筈。


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