雪の足跡《Berry's cafe版》

 自分のベッドを見る。優しく抱いてくれた八木橋を思い出してしまった。八木橋の手、指、切なそうな表情。終えた後の布団からはみ出た足。


「……」


 恥ずかしさで顔が熱くなる。それと同時に胸がいっぱいになった。あの時に八木橋は黙って私の前髪を梳いていた。

 何かを言いかけるときストックを突く彼の仕草と重なる。本当は八木橋は何か言いたかったのかもしれないとふと思った。あの日も私を初めて抱いた夜も。

 八木橋の携帯に電話をする。僅かワンコールで出て、焦った。


「つ、着いたから」
「ああ」


 八木橋はひと呼吸置いた後、体、大丈夫か?、とぶっきらぼうに言う。


「うん……」


 聞きたいことはいっぱいあるのに、本人を前にすると言葉に詰まる。


「病院、行くんだろ?」
「あ、うん」


 卓上のカレンダーを見る。月初で仕事が忙しくなる前に、早退して行くしかない。


「明日か明後日かな」
「……明後日」
「うん」
「明後日なら休み取れるからさ」
「え?」


 だから空気読めよ、と八木橋は怒る。

< 221 / 412 >

この作品をシェア

pagetop