雪の足跡《Berry's cafe版》

 翌々日、2時間程早く退勤して自宅に戻ると八木橋の車が停めてあった。


「ただいま。あれ、八木橋さんは? へ……!?」


 ダイニングテーブルの席に座っていたのはスーツ姿の男性で、一瞬、八木橋の他に来客があったのかと思った。ところがその男性が私の声に振り返り、私の口は動かなくなる。


「ヤ……」
「お邪魔してます」


 濃いめのグレーのスーツ、ノリの効いたシャツ、青系ストライプのネクタイ。初めて見る八木橋のスーツ姿にドキリとした。八木橋は立ち上がり、体大丈夫か?、休んでから行くか?、と私を気遣う。私はそのストレートな優しさに戸惑いながら、受付時間に間に合わなくなるからすぐにと八木橋を促した。

 八木橋が車を出してくれた。助手席に乗る。八木橋は助手席のシートに片手を掛けて、車を後進させた。後ろを見ながら器用にハンドルを切るスーツ姿の八木橋に見取れた。


「なんだよ、ジーっと直視して。惚れ直したか??」
「何言ってるのよ! ス、スーツなんて大袈裟じゃない? たかが病院に付き添うのに」


 病院だけじゃねえだろ、と吐いて車を走らせた。私は右、まっすぐ、とナビをしながら病院に向かわせる。八木橋の台詞の意味は分からなかった。

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