雪の足跡《Berry's cafe版》

 八木橋はそう言うと玄関に行き、深呼吸してから中に入った。出迎えた母が、どうだったの?、と心配げに聞き、私はただ頷いた。

 ダイニングのテーブルに八木橋と並んで座る。母はお茶を八木橋と私に出すと母も席についた。八木橋はあの時と同じに太股の上で拳を握っていた。

 母にも医師から聞いた話をし、白黒の写真も見せた。とりあえず子宮外妊娠でないことに安堵したのか優しい目でそれを見ていた。


「お母さん」


 八木橋はそう言って頭を下げた。


「八木橋さん?」
「順序が逆になってしまって」


 いいのよ、頭を上げて?、と母は言うけど八木橋は動かなかった。


「申し訳ありません」


 ユキだって28だもの、早い方がいいのよ、と母は言った。


「亡くなったお父さんにも何て申し上げてよいか……」


 本当に頭を上げて?、と母が言い、八木橋はようやく姿勢を戻した。




「ユキさんもお腹の子も大切にします。ユキさんを僕にください」


 八木橋は再び頭を下げた。さっきより深々と、額がテーブルに着くくらいに。私はそこでやっと気付いた、八木橋がスーツを着てきた理由。きちんとけじめをつけるために来たんだ、って。


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