雪の足跡《Berry's cafe版》

「ヤギ」
「なんだ?」


 妊娠の話になると動揺して見える八木橋。ただ、少しだけ不安だった。予定外のこの妊娠を疎ましく思ってないか、重荷だと感じてないかって。


「……嬉しい?」


 八木橋はキーを回し、エンジンを掛けた。


「アホ」


 ギアを変えて車は動き出す。病院からの帰り道、八木橋は道を覚えたのか私に聞かずに交差点を曲がって行く。無言のまま車は進み、自宅に戻る。エンジンを切った八木橋はルームミラーを自分に向け、右手を首元にやり、ネクタイを整える。


「ねえっ、気取ってないで何とか答えてよ!」
「……子供好きだって、言ったろ? それだけで分かれよ」


 ネクタイを整えた八木橋は衿を直す。


「ちゃんと言わなきゃ分かんないわよ」


 それでも八木橋はなあんにも言わない。そしてドアに手を掛けて押し開けながら、ようやくボソッと呟いた。


「……嬉しいに決まってるだろ。それに」


 八木橋は運転席を降りた。私も合わせて助手席を降りた。


「それに?」
「早くユキと暮らしたかったから」

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