雪の足跡《Berry's cafe版》

 キッチンに入り、母の手伝いをする。今夜は焼き魚と湯葉。湯葉は細い火でゆっくり煮ないと崩れるのよ、醤油も少しだけね、と母が説明する。こうして母の隣で料理するのもあとどのくらいだろう。

 携帯が鳴る。八木橋からの着信音。私は菜箸を片手に携帯に出る。


「もしもし」
「おう。もう上がったんだろ?」


 うん、今夕飯手伝ってるところでおかずは湯葉と鰆だと伝えると、社員食堂でハヤシライスを食ってきたところだと言われた。


「こんな時間に珍しいじゃない」
「ああ。来週……」
「来週?」
「そっち行ってもいいか?」


 平日だけど連休取れたし、と八木橋は言った。うん、と私は返事をする。この安心感は何処から来るのだろう。遠距離にいながらもそばにいる感じがする。それは八木橋が遠距離恋愛に手慣れてるからかもしれない。

 元カノ……。酒井さんに聞いた話を思い出す。東京から友達と来ていた初心者の彼女は転んで板が外れて困っていた、そばにいたレッスン中の八木橋は見るに見兼ねて声を掛けた、そこに酒井さんが現れて合コンにこぎつけて八木橋と彼女は付き合うようになった 。


< 251 / 412 >

この作品をシェア

pagetop