雪の足跡《Berry's cafe版》
そして流れた私の板をつかみ、転んだ私のところまで板を持って来てくれた。
「……ありがと」
「随分と素直だな」
初心者コースの緩やかな斜面とは言え、登ってくるのはしんどいはずだから。八木橋はしゃがんで板を並べると、私のブーツに手を沿えてビィンディングに合わせた。私は立ち上がり体重を掛けて板を履く。八木橋はそのまま私の足元でビンディングの様子をジロジロと見た。
「締めが緩い。後で直してやるから。それと」
「それと?」
「転ぶな。さっき地震が来たかと思うくらい地響きがしたぞ? ユキ、体重何キロ?」
肩を震わせて笑う。ビンディングの調整をするのに体重を知りたかったんだとは思うけど、八木橋の聞き方にムカついた私は雪をグローブですくってしゃがんでいた八木橋の首裏に突っ込んでやった。
「冷てえっ!」
「女の子に失礼なコト聞くからよっ」
「ユキ、女の子だったか?」
今度は私がフライングして先に滑り下りる。
「ユキ、ずるいぞ!」
後方で声がするけどお構いなしに滑る。緩やかな斜面、ただ滑るのも勿体なくて八木橋の真似をする。山側の足をほんの少し前にして力を抜く。不思議なもので軽く曲がれた。逆の足でも試してみると山側の足が素直について来る。
「ユキ、そうだ!」
再び後方から声がする。
「その調子だ。上体を倒して堪えろ!」
八木橋の言う通りにする。休憩する前は全く体が言うことを聞かなかったのに、何故か素直に体が動く。さっき八木橋の滑りを見たからかもしれない。私と競争だなんて煽ったのはわざと……?
「よし! そのまま行け」
体が軽く感じる。板が軽く感じる。不思議な感触で斜面を滑る。あっという間にリフト乗り場まで来てしまって、再び八木橋と乗り込む。何本も滑る。競争なんて忘れて夢中で滑り下りた。