雪の足跡《Berry's cafe版》

 ロッジを出てリフトを乗り継ぐ。八木橋に初めて連れて来られたロマンスリフト。二人でならんでシートに掛けるけど、私はソッポを向いていた。八木橋は私を挑発するかのように鼻唄を歌う。リフトを下りると八木橋は右に曲がった。初心者向けの迂回コース。彼は斜面の手前でゴーグルをかけ直し、ストックをキッチリと持ち直す。そしてストックを雪面に刺し、それを軸にしてその場で軽くジャンプをした。私も板を前後に動かしたり、肩を馴らしたり、軽く準備運動をする。すると八木橋は、突然勢いよく滑り出した。


「お先~」
「ずるいっ!」


 八木橋はいつものように片方のストックを挨拶がわりに振り上げ、飄々と滑り下りて行った。慌てて私もストックを押して勢いを付け、滑り始めた。

 奴は悠々と滑っていた。コースの右端から左端へと蛇行するように動く。私に抜かされたくないならもっと直接的に下りればいいものをわざわざ迂回するように滑る。私に対する挑発だとは思ったけど両足の揃ったフォームは綺麗だった。山側の足をほんの少し前にずらして滑らかに曲がる。見とれた自分に腹が立ち、私は八木橋を一気に抜いた。八木橋のエッジを切る音が遠くなったと思いきや、今度は八木橋に一気に抜かれた。


「ユキちゃん上手~」


 奴は抜き様に私に言い放った。そしてスピードを上げて真っ直ぐにコースを下りていく。時折出来た小さな段差で滑りながらジャンプをしている。勿論転ぶはずもなく、ちゃんと着地して飄々と滑りを続ける。

 馬鹿にされて悔しくて私も段差を避けずに通る。でもジャンプに慣れてない私は一瞬宙に浮いた後、バランスを崩した。


「きゃあっ!」


 尻餅をつく。白い曇り空をバッグに葉を落とした枝々が見えた。それ同時に片足が軽くなる。転んだ衝撃で板が外れたようだった。私は手を突いて上体を起こし、外れた板を探す。ストッパーは付いてるけど、それは数メートル下まで落ちて止まっていた。板のもっと下の方にいた八木橋は駆け上がるように斜面を登って来ている。板を逆ハの字にしてガツガツと登る。

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