雪の足跡《Berry's cafe版》

「お前?? ヤギにお前なんて言われる筋合いないし、婚約解消したんだから!」
「ああそうですかそうですか、悪うございました。ユ、キ、さ、ん!」


 これでいいか?、アホ!、と八木橋は言い捨てた。


「ムカつく! もう関係無いんだから電話なんか掛けて来ないでよねっ!」
「だったら着信拒否しとけよ」
「言われなくてもそうさせていただきますっ、可愛い菜々子とお幸せに!! ふんっ!」


 私は携帯画面を睨みつけて通話を切った。せっかく声が聞けたかと思えば菜々子を庇って。


「ユキ、八木橋さんからだったの?」
「うん……。菜々子が八木橋さんと写真撮るんだって」
「写真?」
「ピンクのドレスを来てフラワーファームで撮るみたい。八木橋さんもタキシード着るって」
「菜々子ちゃんに先を越されたわね」


 先を越されるも何もない。テーブルに広げたままの情報誌をめくり、リゾートウェディング特集のページを広げる。明日菜々子と八木橋はこうやって写真を撮る。ムカつく。青い山々をバックに白いドレスを着た新婦、微笑む新郎。モデルは八木橋ではなかったけど胸が苦しくなった。新婦の顔に元カノの顔が浮かんだ。本当は私がここに立つはずだった。元カノを知らなければ、あのとき流産しなければ、何も無かったように披露宴の話を進めていた。
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