雪の足跡《Berry's cafe版》

「ねえ、ユキ。見る?」


 母は古びたアルバムを持ち出してきた。


「覚えてる?」


 そのアルバムの最初のページにオレンジ色のドレスを着た幼い私がいた。


「え……?」


 多分5歳位。全く記憶が無い。満面の笑みで首を傾げてカメラ目線でかしこまっている。やっぱり覚えてないのね、と母は言った。二つ年上の従姉が七五三で着物とドレスで写真を撮ったのを見て私も着る、と言い出したらしい。


「でもね、今みたいにドレスのサイズも種類も無くて」


 女の子の好きなピンクや水色、白のドレスは沢山あった。でも私の好きなオレンジ色のドレスは全くと言う位無かった。


「衣装店でユキが泣き出してね、勿論嘘泣き」


 仕方なく母は布を仕入れ、一からドレスを縫った。嘘泣きした娘のために。


「母さん、ムカついた?」
「そりゃあね。我が子ながら腹が立ったわよ。七五三でもないのにドレスを着たいっていうから写真館まで予約して貸し衣装を見に行ったのに」


 店員さんが、新作で誰も袖を通してないからユキちゃんが最初のお姫様よ、とか、水色もおねえさんに見えて素敵、とか宥めるけどいっこうに泣き止まない。

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