雪の足跡《Berry's cafe版》

「あ!」
「どうかしましたか」
「あの、私、妊娠しにくいかもしれなくて」


 柏田さんは見る見る顔を赤くしてハンカチを取り出した。そして慌てて額の汗を拭く。


「は、母がなかなか子宝に恵まれなくて、遺伝してるかもしれません」
「子供はどちらでも。いたらいたなりの、いなければいないなりの人生があると思いますから」
「私は一人娘で父も他界してますし、母を残して嫁ぐのは……」
「僕は長男ですが姉夫婦が近くにいますので、婿入りも出来ます」
「さっきも話しましたけどやっと正社員になれて」
「家事を疎かにしないなら続けてください。僕も協力しますから」


 柏田さんは、是非とも検討してください、よろしくお願いします、と頭を下げた。そして姿勢を戻すと、なんだか営業みたいですね、と汗を拭きながら笑っていた。





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