雪の足跡《Berry's cafe版》

 携帯を閉じる。胃の痛みに耐えながら母の話を思い出していた。アルバムをめくりながら、恩を着せるつもりはないけど育児は大変よ、と話してくれた。


『ちょうどこの頃だった。ユキが突然熱を出してね』


 そのオレンジ色のドレスを着た5歳の頃だった。ある朝、嘘泣き以外で滅多に泣かない私が喉が痛いと涙目で訴えた。母はインフルエンザだとピンと来た。幼稚園で高熱の風邪が流行っていると回りから聞いていたのだ。体温計を出し、熱を測ると39度。掛かり付けの小児科が開くのを待って自宅を出た。

 ハンドルを握る。やけにフラフラする。それは娘が高熱を出してパニックになってるからと思っていた。小児科に着いたが待合室は既に沢山の子供で埋め尽くされている。見るからに皆インフルエンザ。自分だけ先に診てもらうことも出来ず、寒がる私を毛布でぐるぐる巻きにして待つしかなかった。そしてようやく診てもらえたのは2時間を優に過ぎていた。

 医師から、インフルエンザで間違いないでしょう、と診断が下される。昔は今みたいに検査薬も特効薬も無かった。症状を抑える薬、解熱の座薬。会計をして薬を貰い自宅に戻る。

 喉が痛いという娘に林檎をすり下ろす。痛みを我慢して食べたはいいが熱が酷く吐いてしまう。汚してしまったパジャマを着替えさせる。関節の痛みも出始めた私は泣きながら着替えた。


『痛い寒い……気持ち悪いよ……お母さん』
『ユキ、ごめんね。辛い思いさせて』


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