雪の足跡《Berry's cafe版》

 メールじゃ拉致が明かない。でも柏田さんの手前、隣で八木橋と話すのは失礼だと思った。


「柏田さんっ、気分が悪いですっ、止めてください!!」


 車は直に小さなサービスエリアに止まる。私は降りると休憩スペースに向かいながら八木橋の番号に電話を掛けた。


「何様のつもり?」
「自分の板だろ、取りに来るのが筋だろ!」
「宅配代金が惜しいなら着払いでも構わないわよ!」
「そんなケチ臭いこと言ったことあるかよ」
「絶対取りになんか行かないからっ」


 板、見たくないのかよ、綺麗にチューンナップしてくれたぜ?、と八木橋は言った。


「別に頼んだ訳じゃないし」
「お前の大切な板だろ? いらないのかよ??」
「いらない」
「……」


 私がいらないと言うと八木橋は黙り込んだ。本当にいらなかった訳じゃない、売り言葉に買い言葉だった。


「じゃ、私予定があるから」


 私はバツが悪くてその通話を切った。再び柏田さんの車に乗り込む。音楽に合わせて歌詞を口ずさむ。そういえば八木橋も私の車の中で鼻歌を歌っていた。

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