雪の足跡《Berry's cafe版》

 高原の牧場に到着した。まずは腹ごしらえにソフトクリームを食べる。私は桜ソフトにした。柏田さんはバニラソフトのコーンを持ちながらプラスチック製のスプーンですくって食べている。


「こっちも気になりますか?」
「あ……はい」


 柏田さんはスプーンですくって私に食べさせると顔を赤くして、間接キスですね、とはにかんだ。私はこないだの母の話を思い出していた。父が私にアイスクリームを食べさせたこと。柏田さんもいつか子供にそうするのか、って。でもあまりピンと来ない。菜々子と手を取り合って写真に写る八木橋なら何の抵抗もなく菜々子に食べさせると思った。


「……アホヤギ」
「ヤギ?」
「あ、あのヤギが見たいなあと思って」


 慌てて柵の向こうのヤギを指す。柏田さんは、青山さんは可愛い方ですね、と笑う。ソフトクリームを食べ終えてヤギに向かおうとすると柏木さんの手が私の頬に伸びてきた。


「ソフトクリームが付いてますよ」


 柏田さんの指がそっと私の口角に触れた。


『ユキ、可愛い……。今日は、すげえ可愛い』


「……」


 あの夜、覆いかぶさった八木橋が私の唇をなぞりながら言った台詞を思い出した。すごく切なそうに私を抱いていた。


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