雪の足跡《Berry's cafe版》

 八木橋を追い掛ける。午前中みたいに大きく蛇行はしない。早めのターンで他のスキーヤーを追い抜いていく。私も追う。八木橋がワックスを掛けてくれたからか、足が軽い。板が体と一心同体のように私の言うことを聞く。つかず離れずで彼の後ろを走る。


「ねえっ!」


 今度は私が後ろから怒鳴った。


「彼女いるんでしょっ?」


 八木橋は人波をすり抜けて滑降する。


「彼女に悪いじゃないっ!」


 私の台詞なんてお構いなしで。


「返事してよ!、ヤギっ!! 返事っ!」


 八木橋はコースの端に向かい、エッジを立てて止まった。私も山側について止まる。


「板の具合、どうだ?」
「そうじゃなくて……」


 心拍数が上がる。急いで下りてきたからかもしれない。息も上がってることに気付く。


「足、重くないか?」
「か、軽く感じるけど……」
「そうか」


 八木橋がストックでグサグサと雪面を刺す。彼女のことを聞かれてとぼけるのは、それが本当だから。そして彼女がいるにも関わらず私にちょっかいを出してることがバレたから。


「……とっくに別れた」
「へ? わ……」


 八木橋は自分の刺した穴を見つめるように下を向いていた。彼女を思い出してるんだろうか、携帯に保存していた元カノの画像。引きずってるのかもしれない。


「アホ」
「何がアホなのよっ」
「だから、アホ」

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