雪の足跡《Berry's cafe版》

「それとも、彼氏のことが忘れられませんか?」
「え??」


 俯いていた私は驚いて顔を上げた。


「青山さんは正直な方ですね」
「え……」


 遅くなりますから車に乗って話しましょう、いかがわしい所には連れて行きませんから安心して、と柏田さんは笑った。車に乗り、発進させると柏田さんは話を始めた。


「そろそろ家庭を、と思いましてね」


 柏田さんは40を過ぎて再び婚活を始めた。合コンに懲りていた柏田さんはお見合いという方法で相手を探した。条件のいい柏田さんに話はすぐに舞い込む。既に柏田さんは私の前に数人と見合いをしていたけどピンと来る女性は現れなった。

 そんな折、父の知人から私をと紹介される。たまたま私の家族との写真を持っていた父の知人はそれを柏田さんに見せた。料理が得意でスキーの上手い娘だ、と。その写真で私は父と腕を組んでいた。きっとこの娘さんなら暖かい家庭を築ける、そう思った。


「姉が高校生の頃、パパ臭い!、パパの洗濯物と一緒に洗濯しないでー!、って毛嫌いしてましたから。あの写真は衝撃的でした」


 そしてあの見合い写真は私の元にやって来た。でも八木橋という婚約者がいた私はしばらくの間“放置”していた。


「すぐに見合いの席がセッティングされると思っていたのに肩透かしを食らった気分でね」


 今まですぐに釣れた魚が全く釣れない。日に日に私への思いは高まるばかりだった。柏田さんは父の知人に尋ねた。そして私に恋人がいることを知った。

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