雪の足跡《Berry's cafe版》

 柏田さんに今朝拾ってもらったところで降ろしてもらう。荷物もあるし自宅まで送るよと言ってくれたけど断った。自宅に送れる男性は一人だけ、と私は無意識に縛りを付けていた。自宅に上がって父に線香を上げるのも母に挨拶するのも、ダイニングテーブルで私の隣に座るのも階上の私の部屋に入れるのも、それを許せるのは八木橋だけだって今更ながら気付いた。

 車を降りて見えなくなるまで深々と頭を下げる。母の言う通り、気を持たせるだけで終わってしまった。柏田さんにも父の知人にも申し訳ないことをしたと後悔した。

 自宅のドアを開けると醤油の香ばしい匂いがした。ただいまと声を掛け、買い込んだパンをテーブルに置いた。


「母さん……ごめんなさい」


 分かったならいいのよ、明日にでも写真は返して来るわ、と母はキッチンで笑っていた。私の顔色ですぐに分かったらしい。


「謝るのは慣れっこよ。ユキのせいで今まで何回謝ってきたと思うの?」


 幼稚園や小学校で男の子を泣かせたと担任から連絡を受けて、母は謝りの電話を掛けたり直接お詫びに伺ったりした。


「そんな顔してユキらしくないわね」
「だって」
「男の子泣かせても、いつも胸を張ってたじゃない」


 男の子を泣かせるのは私なりに理由があった。友達のスカートをめくって泣かせた男の子、私はその男の子のズボンを下げ返して泣かせた。私の消しゴムを隠した男の子にはその男の子の体操着を窓から校庭にある池に目掛けて投げた。


「ユキにはユキなりの理由があった、今回もそうでしょう?」


 だいぶ歩は悪いけれどね、と母は言った。

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