雪の足跡《Berry's cafe版》
コーヒーを飲み終えてぼんやりと窓を見る。日も暮れて空からの僅かな光に反射した湖面が遠くに浮かび上がる。
「おう」
「あ……お疲れさま」
私服に着替えた八木橋は私の前に腰掛けると、コーヒーとロールケーキ二つをスタッフに注文する。
「ユキはコーヒーお代わりするか?」
「あ、うん」
スタッフはそれを聞くと席から下がった。
「あ、悪い。“ユキさん”か」
八木橋はそう言うと頭をかいた。しばらく沈黙する。それでも良かった。ここで板を返すと言われたら、もう八木橋の顔も見れなくなる。
コーヒーが届く。八木橋は大きな手でカップを持ちコーヒーを啜った。
「明日」
「うん」
「俺の誕生日」
「さっき酒井さんから聞いた。あと、菜々子」
関節がゴツゴツした男特有の手。きっとまた冬には違う女の子に触れるんだろうと思う。その子にはせめて、私や元カノのことは知らせないで欲しい。私みたいに苦しい思いをさせないでと思う。八木橋の隣には八木橋も自分も幸せになれる女の子がいて欲しい、って。
その手を腕を肩を目に納める。胸が締め付けられて痛いけど泣かない。泣いたら八木橋がぼやけて見えなくなる。