雪の足跡《Berry's cafe版》

 もっと、こう、優越感とか勝ち誇る気持ちが湧き出るかと思ってた。高飛車に出てしまいそうで怖かったのに、元カノを目の前にして私は申し訳なく感じていた。悪いことなんてしてないのに、私が横取りしたみたいに。


「あの、ミオさ……」
「か、勘違いしないでくださいっ」


 元カノは携帯を抱きしめたまま、俯いて声を出した。


「わ、私、八木橋さんと寄りを戻したくて来た訳じゃありませんからっ」
「ミオ……さん?」


 巻き髪が揺れた。


「あ、新しい彼が出来たからその報告に……き、来たん……です……」


 元カノは肩を震わせていた。新しい彼が出来たなんて嘘だと思った。八木橋とお揃いの携帯を宝物だと抱きしめて、しかも待受には二人の画像。どう考えても元カノは八木橋をずっと好きだったに違いない。


『雪山には来れそうになかったからな』


 元カノだって嫌いで別れたんじゃないんだと気付いた。なら尚のこと彼女の気持ちは分かる。スキーをしたことのなかった人間が雪山に嫁ぐなんて勇気がいることだと思う。スキー馬鹿の私ですら、ここに来ることに悩んでいたのだから。
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