雪の足跡《Berry's cafe版》

「あっ、私のです!」


 開き始めた自動ドアの向こうから女性の声がした。そしてその女性の後ろには八木橋と酒井さんがいた。


「すみません、それ……」


 元カノだった。ふんわり巻き髪の元カノは片足を引きずりながらベルスタッフの元へやって来る。ほんのりと香水の匂いがした。女の子らしい元カノ。ベルスタッフから携帯を受け取り、大切そうに両手で囲んで胸に当てている。スタッフは、こちらのお客様が届けてくださいました、と手の平で私を指した。


「ありがとうございました、大切なもので。宝物なんです……本当にありがとうございます」


 元カノは深々と頭を下げた。大切な携帯、きっと八木橋と一緒に買いに行ったんだろうかと負の妄想をした。可愛らしい彼女、私とは正反対だと思った。客観的に分析している自分に驚いた。意外に冷静な私。


「ユキ」
「あ、うん。歩道に落ちてて。ヤギのかと思って拾って」


 八木橋とそう会話をしたところで元カノは気付いたようだった。さっきフラワーファームで八木橋といた人間が私だ、って。見る見る元カノの柔らかい笑顔が崩れていく。きっと八木橋や酒井さんから私と八木橋が結婚すると聞いたんだと思った。


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