雪の足跡《Berry's cafe版》

 あれから私達は結婚の準備を進めた。八木橋の仕事が忙しくなる前に一緒に生活を始めようと秋に式を予定した。


「……花は咲いてない時期だね」
「そだな……」


 このホテルの一番の売りはフラワーファームの花畑。春から初秋までは何かしらの花が咲いている。花を愛でて花摘みをして持ち帰ったり、菜々子のように菜の花畑で写真を撮ることも出来る。青空教会も然り。でも冬目前の11月となると、晴れても外での挙式は難しい。となると温室にあるミニ教会での挙式になる。


「でも温室はそれなりの」
「そだな……」


 勿論スキー場はオープンしていない。何も無い時期、でも八木橋との結婚を花だけのためにずらすのも嫌だった。早く一緒にいたいって、そう心から思っていたから。

 週末、八木橋の部屋。窓から外を見るとポピーは見頃を過ぎて、代わりにラベンダーが香り始めた。皆にこの猪苗代を知ってもらいたくて式をここで挙げようと決めたのに、逆に何も無い山の中だと宣伝しているようでがっくりと来た。


「俺、仕事に戻るけど夕方には上がれるから」
「うん。いってらっしゃい」
「そしたら飯食いにいくか?」


 八木橋はそう言うと、私にキスをして部屋を出て行った。一人ぽつんと畳に座る。掃除でもしようかと思ったけど、殺風景な部屋はきちんと片付いていて掃除の必要もなかったし、まだ奥さんでもない私が掃除をするのも妙な気がした。

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