雪の足跡《Berry's cafe版》

「興味が無い筈はない、かな」


 翌日、チェックアウトをしたあと、ホテルの玄関にいた酒井さんに尋ねた。私はあの封筒が気になっていた。技術選研修会の資料を捨てた八木橋、ただ週末だから行かないだけなのか引っ掛かっていた。


「毎年出場してるし、DVDとか教本とか舐めるように見てるし。こだわりはあると思うよ、ヤギは口に出しはしないけどね」


 酒井さんは私の荷物を持ち、駐車場へ歩きながら言う。


「週末だと休みはもらえないの?」
「うん、そうだね……。週末は書き入れ時だし、特に冬はヤギのご指名が多いからね」
「そうですか……」
「でも景気の良かった時代にはこのホテルもスキーチーム抱えてたし、上層部がOKしてくれる可能性はあるよ」
「なら何故」
「ほらヤギってさ、面倒見が良いっていうかさ、自分を必要としてる人がいると自分を押さえ込むじゃん。忙しい週末に仕事や指名してくれるちびっこ達を置き去り出来ないんだと思う」


 酒井さんの方が婚約者の私より八木橋を熟知してると思った。こうして八木橋のことを相談出来る人がいる半面、妬いてしまう。


「それに」
「それに?」
「ヤギ、地に足をつけようとしてるんじゃないかな」
「地に足……」


 長男なのに実家を出て好きなことしてるって負い目を感じてるのもあるみたいだよ、と酒井さんは言った。

 私の車のところまで荷物を運んでもらい、酒井さんとはそこで別れた。運転席に乗り込み、エンジンを掛ける。

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