雪の足跡《Berry's cafe版》
 翌日の引っ越しはあっさりと終わった。八木橋の数箱の段ボールに加え、浦和から私の段ボール数箱が宅配便で届く。それらを二人で廊下から運び入れて備え付けのクローゼットにしまうと、ものの1時間で終わってしまった。それから麓のショッピングモールに行き、食器や鍋などの調理道具、押し入れストッカー等、足りないものを購入した。節約して必要最小限にとどめる。一気に沢山の物を揃えるんじゃなくて、一つずつ足していく。一歩ずつ足跡を増やしていけばいい。焦ることなんてないって自分に言い聞かせた。

 そんな引っ越しを終えたあと、私は再び浦和に戻った。ゆっくりと母と過ごしたかった。その1週間、母はいつもより少しお喋りでいつもより少し忙しなかった。きっと親の寂しさを出さないように私に気遣かっているのだと思った。

 そして式を明日に控え、私はひと足先に猪苗代に向かうために母に大宮駅まで車で送ってもらった。いつもならロータリーで降ろしてもらうけど母は車を駐車場に入れ、改札口まで見送りに来てくれた。


「母さん、明日はよろしくお願いします」
「やあね、改まって」
「それから」
「何」
「……ありがとうございました」


 私は深々と頭を下げた。もう辞めてちょうだい、と言う母の声は涙声で詰まっている。ひと呼吸置いて私は頭を上げた。


「私、母さんの子供で良かった」


 何言ってるの、と言う母は涙を零し始めていた。


「ユキ……ほら新幹線間に合わなくなるわ……よ……」
「うん。行くね」


 私は切符を改札機に差し込み、振り返らずに新幹線のホームへ向かった。母の前では泣くまい、そう決めていた。でも母の泣き顔を見てる私も涙が込み上げてきてボロボロと泣いてしまった。

 新幹線に乗り込み車窓から景色を眺める。曇天、明日の予報は雨。母の予想通り、父が号泣して雨になるのだろう。


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