雪の足跡《Berry's cafe版》

 朝目覚めてくすぐったい感触に身震いする。裸で布団に入っていた。誰が見ている訳でもないのに恥ずかしくて布団の淵を引っ張り、鼻の頭を隠す。掛け布団から八木橋の匂いがする。男くさい匂い。思い出して照れた。

 抱かれた。八木橋に抱かれた。起き上がり、ユニットバスに入りシャワーを浴びる。私が八木橋の首筋にキスマークを付けたあと、仕返しとばかりに八木橋は私の体中に跡を付けまくった。鬱血したたくさんのキスマーク。嬉しくて照れ臭くて、体を見ずに洗い流す。

 昨夜、八木橋は行為を終えてしばらく腕枕をした後、帰っていった。ピロートークという程の甘い会話はなく、ただただ私の髪を梳いていた。明日は1月1日。人手も足りないらしく、今夜の雪が降り積もるだろうからと早朝から雪掻き要員として借り出されてる、と八木橋は話してベッドから降りた。そして支度をすると、アイスバーンに新雪はチェーンでも滑るから気をつけて帰れよ、とだけ言って部屋を出ていった。

 服を着る。朝食を取る。冷蔵庫に僅かに残った食材を処分する。支度をしながら着替えや化粧品など荷物をまとめる。チェックインした時と同じ室内を見渡す。八木橋が立ったミニキッチン、八木橋が座った場所、二人で絡み合ったソファ。八木橋の姿が目に浮かんで胸がいっぱいになった。私はこれからチェックアウトをする。荷物を車に積んで最後のスキーを楽しむ。今日も一人で滑るし、自宅まで一人で帰る。その私の間近な未来には八木橋の姿はない。携帯を壊されたフリで私に絡んで仕事をサボりケーキに付き合わせた。そして最後に体を重ねた。きっと満足してると思う。そしてきっと、また、違う女の子を物色して一緒にケーキを食べて合コンをセッティングして夜這いをする。私は用無しだと思う。だからこの部屋を出たら八木橋のことは忘れよう、もう思い残すことはないって。ゲレンデの恋なんて雪が溶ければ消えて無くなる……。

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