雪の足跡《Berry's cafe版》
荷物を抱えチェックアウトを済ませてロビーから外に出ると、グレー地にホテルのロゴが入ったスタッフ用コートの男性が近付いてきた。
「あ、青山さん、今日で帰るの?」
酒井さんだった。車まで運んであげるよ、と酒井さんは私の荷物を持った。人手不足で酒井さんもホテル側に借り出されてるようだった。また来てね、うちの雪質良かったでしょ?、と言った。
「やっぱ青山さんもヤギ狙い?」
「いえ。別に」
酒井さんは、またまた~、格好つけちゃって、と私を茶化した。
「だったら昨夜、来れば良かったのに」
「昨夜……?」
「年越し合コン。ヤギも来たよ」
だいぶ遅刻したけどさ、と酒井さんは言った。
「合コン??」
「あれ?、聞いてなかった? ヤギに青山さんも誘ってって頼んだのに。ほらさ、人数多い方が楽しいじゃん」
酒井さんは、女の子はスタッフのコとか地元のコとかみんなピンでバラバラだったし、ざっくばらんで楽しかったよ、とかなんとか歩きながら一人でペラペラと話していた。私は適当に相槌を打つ。もう頭の中ではぐるぐると昨夜のあの後の八木橋の行動を想像していた。あの部屋を出たら忘れようって決めたのに、勝手に脳が回転する。早朝から仕事だって言って出て行った八木橋は合コンに参加するために帰った、ってこと??
酒井さんは、メルマガ登録してたよね?、俺、担当だからスクールのパソコンからメルマガ送るね、と言いながら荷物を私の車に積んだ。
「八木橋さんは……」
「レッスンに出てると思うよ。指名入ってたし」
指名。ふうん。
「ヤギもタフだよね。スクールの仕事をこなして夜中まで飲んで地元のコ歩いて送って朝から雪掻きだし」
へえ。