雪の足跡《Berry's cafe版》

 小さいテーブルの上に除光液とコットンを出した。もう剥がれちゃった訳じゃない。
 一番好きなパステルオレンジのネイルカラー。雪のシール。


「……」


『どこもかしこも雪か』
『こんな爪してるから料理なんてしないのかと思った』


 八木橋に後ろから抱きしめられたのを思い出した。おっきな手で私の手をすくい、そして優しく包み込んで。


『たった3日で……俺、軽い、か?』


 私だってたった3日だった。4日目には自分の気持ちを確信して、八木橋を誘った。あの台詞は八木橋の本心だって気がした、私と同じ気持ちだって。そう思い込みたかったのかもしれない。でも八木橋はきっとあんな台詞何処でも誰にでも吐いてるに違いない、あのあとに参加した合コンだって、たった1時間で軽いか?、なんて地元のコを誘って送ったんだ。手をつないだりしただろうか、ちゃっかりキスなんかしたんだろうか。


「ふんっ、くっそ~!」


 コットンに除光液を含ませるのも面倒になって、直接爪に振り掛けた。そしてコットンでもみくちゃに擦る。八木橋に綺麗な私を見せて損した、必死に化粧して損した、このネイルと共に綺麗サッパリ忘れてやる、と何度も除光液を掛けてはゴシゴシ擦ってこそげ落とした。きっと爪が傷んで欠ける、でももういい、しばらくネイルなんてやるもんか、と意地になって落としていた。


「よしっ」


 ラメもひと粒残さず綺麗に落とし満足して爪を眺めるけど、八木橋を忘れられる筈もなくため息をついた。過剰反応してる自分にも笑えた。でも、3日で恋に落ちたんだ、3日で忘れればいい、そう言い聞かせてベッドに入って目を閉じた。
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