雪の足跡《Berry's cafe版》
『当たり前だろ。お前なんかより若くて素直で可愛い子だし』
『ちゃんと可愛くおねだりもするぞ、キスして、って』
「や、やだ……」
顔がカーッと熱くなる。両手で頬を押さえた。昨日、ホテルを出るときに酒井さんが言ってたご指名の相手は、年頃の女性ではなくこんな小さな女の子だった。なのに私は勘違いして……。
携帯の中の小さな画像を眺める。嬉しそうにキスをする女の子、照れて目をつむる八木橋。
「ヤギ……」
私は、あの時酷いコトを言った気がする。記憶を辿るけど頭に血が昇ったときの台詞なんて覚えてる筈もなくて。でも八木橋が言った台詞と表情は克明に覚えていて、彼は携帯を放り投げた私を呆れたように見ていたのも覚えている。あれが最後に見た八木橋の顔。
「そっちが喧嘩仕掛けに話してくるからじゃない……」
八木橋がいる訳でもないのに、八木橋に言うように呟く。画像の中の八木橋は口元を緩ませてキスを受けているだけで。でも、こんな八木橋の顔を見れて良かった。このメルマガが来なかったら、あの呆れ顔の奴の顔で終わるところだった。もしかしたら合コンだって何か事情があったのかもしれない。
今更どうなることもないのに、私はそのメルマガを一度閉じて八木橋からの受信メールを開いた。
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