雪の足跡《Berry's cafe版》

 次の日も一人で仕事だった。開錠して蛍光灯をつける。空からの明かりがあるのにブラインドを閉めて電気を灯すのは不健康な気がした。外の景色も見えない遮断された世界。今の自分のようだった。明日になれば門前病院も開いて患者さんも押し寄せる、お昼休みもそこそこに仕事を進める、薬局が閉まったあとには締め切り間近のレセプトを薬剤師さんとチェックする。誰にも邪魔されずに、しかも呑気にコーヒーを飲みながら仕事出来るなんて滅多にないのにどうしてこう、気が重いのだろう……。

 別に付き合ってる訳じゃない。ただ一晩ヤっただけ。付き合う、なんて台詞はおろか、好き、とも言われてない。それどころか逆にもう来るなと言われたって可笑しくない。携帯を投げて困らせた私を、一度ヤってもう用の済んだ私を疎ましく感じてるかもしれないって。

 携帯だって、あの雪の中、探した。朝から雪掻きの仕事して午前も午後もレッスンに出て。しかもあんな小さな子、屈んだり抱き起こしたりして大人より遥かに大変な筈。なのにあの林の中へ探しに行った。それは携帯がないと困るから。そして、元カノの画像が保存してあるから……。それが妥当だと客観的に考えた。

 今日のお弁当もお節。朝晩と同じおかずに流石に食欲もない。“お節に飽きたらスキー&スノボですよ”の文字が頭を過ぎるけど、昨日の今日でメルマガの配信はないのか、携帯は鳴らなかった。

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