雪の足跡《Berry's cafe版》

 携帯を手に取り、昨日受信したメルマガを開く。一番下までスクロールし、画像を眺める。八木橋の教える姿。八木橋がキスされてる顔。


「な、何よ。デレデレ鼻の下伸ばしちゃってさ。もしかしてロリコンっ??」


 恥ずかしそうに目をつむっている八木橋。


「目、つむってるなら分かんないわよねっ」


 屁理屈をつけて、私は画面の八木橋に軽くキスをした。八木橋は当然、目をつむって口元を緩ませているだけだった。


 時間になり薬局を出る。週末の3連休の予定を考えながら自宅に戻ると、見覚えのある車が2台止まっていた。恐らく叔父と叔母の車。お正月で年始の挨拶に来たんだと思う。自分の車を路肩に止めて中に入ると和室で宴会が始まっていた。


「おう、ユキちゃんお帰り」
「ユキちゃんお邪魔してます」


 私は一度部屋に行き、鞄やコートを置いてから和室に戻った。父方の叔父夫婦、母の妹。皆に年始の挨拶をし、叔父達にお酌をした。叔父達も私にも酒を進める。


「ユキちゃんも酒が飲めるようになったか。亡くなった兄さんも日本酒党だったもんなあ」
「40になってようやく出来た娘は可愛かったでしょうねえ」


 毎回出る会話。平均余命が80という世の中で64という若さで亡くなった父。親戚が集えば笑いはなかった。火葬場で泣きわめいた私を気遣っていたのかもしれない。でも2年を過ぎた頃からようやく父の思い出を笑顔で語れるようになった。父を忘れた訳じゃない。でも、笑っている遺影の父に楽しい思い出ばかりを浮かべるようになっていた。だから今シーズンはスキーに行こうと思えるようにまでになった。

< 66 / 412 >

この作品をシェア

pagetop