雪の足跡《Berry's cafe版》
「買いに行きましょうか」
「買いに行ってくるね」
同時に発した声が重なる。立ち上がった正面に八木橋の胸板が見えた。八木橋も立ち上がっていた。
「やっ……」
あらあら仲のいいこと!、と叔母達にからかわれた。酒井さんも、ヤギは美味しいところ持ってくよね?、と煽る。そして叔母達に、せっかくだから二人で買いに行ったら?、と言われて渋々二人で外に出た。廊下で八木橋は無言でスニーカーを履き直した。
「無理してついて来るなよ」
「そっちこそ……」
廊下を並んで歩く。私はホテルの浴衣に羽織りを着ていたけど、八木橋はあの黒いダウンジャケットを着ていた。エレベーターの前に行き、八木橋が下りボタンを押す。
「聞いた時は嘘だって思ったけど」
「何がだよ」
「板の開発……」
ああ、ユキの板を見た時は正直驚いた、レディスは限定30本だったし、シリアルナンバーも3と若かったし、と八木橋は説明した。
「それでレストハウスに?」
「ああ」
あの時は嘘ついて悪かった、普通に声掛けても信じてもらえないと思ったから、と八木橋は弁明する。そこでエレベーターの到着を知らせる音が鳴った。扉が開き、乗り込む。
「俺が作った板がどんな風に滑ってくれるのか見たかった」
八木橋はそう言いながらロビー階のボタンを押した。扉が閉まる。八木橋は操作盤の上にある階数表示を見上げていた。私は八木橋の横顔を見るのも苦しくて、俯いた。