雪の足跡《Berry's cafe版》
自分でも我が儘だと思う。合コン目的で声を掛けられた、軽い男だと文句を言い、こうして開発に携わった板を見掛けて声を掛けられたら掛けられたで虚しいと感じている自分を。八木橋はただ、板に興味があって声を掛けただけなんだ。私に興味があった訳じゃない。スキー馬鹿が自分の産物に気になっただけ。なら、まだナンパの方がマシだった、合コン目的の方がずっと良かった。だってそれなら私を女として見ていることになるから。少しでも八木橋のお眼鏡に適った女と言えるから。八木橋にとって顧客でしかなかった自分……。
直にエレベーターはロビー階に着いてミニコンビニに向かう。八木橋はカゴを持ち、つまみとを次々と放り込む。私は黙ってそれを見ていた。次に八木橋は冷凍ショーケースに向かいそのガラス扉を開けた。冷たい空気が足元に掛かり、私は身震いした。浴衣に素足、ロビー近くということもあり、玄関の自動ドアが開く度に外気も入る。
八木橋はカゴを私に差し出した。
「ボーっとしてないで持てよ」
「女に荷物を持たせ……る……」
八木橋は着ていたダウンジャケットを脱ぎ襟元を持つと、私に一歩近付いて腕を回した。そしてジャケットをふわりと私の肩に掛ける。
「……」
目の前には八木橋の黒いタートルシャツ、このまま見上げたらきっとキスをせがむような格好になると思い、手元のカゴを見た。持ち手に八木橋の手が近付く。その手はカゴの持ち手を掴み、私からカゴを奪い取った。
「行くぞ」