雪の足跡《Berry's cafe版》

「ホントならヤギは予選パスなんだけどね」
「パス?」
「全国大会決勝まで残った選手は翌年は予選無しで全国大会からエントリーするんだ」
「ヤギは去年、全国決勝まで?」


 酒井さんは、そう、ヤギは毎年決勝まで残ってるよ、と言った。


「去年、会場に向かうって時にさ、そこの県道で事故があってね。エントリー締め切り時間に間に合わなかったんだ」
「免責というか、そういうのはなかったの?」


 うん、前の日からエントリーは受け付けていたしね、その事故にヤギがレッスンした家族が巻き込まれてて、ヤギ、ほっとけなかったんだよね、と酒井さんは事故直後の詳細を話し始めた。


「大きな怪我人は出なかったけど、そのご主人が前方の事故った車を避けようとして頭打って。多分ハンドル切ったらスリップして車体が横に振られたんだと思う。で、ヤギが救急車呼んでさ」


 で、奥さんはご主人に付き添って救急車に乗らなきゃいけないけど、娘さんはパニックになって泣いちゃってるしで、ヤギが娘さんを預かってさ、と言った。


「その家族を放って行っちゃえば間に合ったのに。遅刻して失格。ヤギらしいよね」

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