雪の足跡《Berry's cafe版》

「ヤギね、今日いないんだ」
「え……」
「技選に行ってる」


 酒井さんはご馳走になったお礼にランチ一緒に、と誘ってくれた。断るのも悪いと思い、返事をする。酒井さんは生徒を連れて準備運動を始めた。八木橋は技術選……。運がないと思う、縁もないと思う。そう思う半面、安心してる。またここに来る口実が出来たって。

 午前中は目一杯滑って酒井さんとお昼を食べたら上がろう、それから高速に乗って帰れば夕飯には間に合う。きっと母さんは腕によりを掛けて料理を作ってるだろうからちゃんと帰ろうって思った。少し早めに帰れば手伝えるし、そんなことを考えながら滑っていた。

 昼近くになり、麓のレストハウスに行く。テーブル席はいっぱいでカウンター席に席を取る。レッスンを終えた酒井さんはしばらくしてやって来た。


「おまたせ。何食べる?」


 酒井さんに明るく声を掛けられた。彼は私の注文を聞くと食券を買いに券売機に向かう。私も席を立とうとすると、座って待ってて、と牽制された。八木橋ではない赤いウェアに違和感を覚えながら酒井さんの背中を見る。器用に左右それぞれに料理を乗せたトレーを持ち、カウンター席に戻ってくる。


「今日、県予選の予選」


 酒井さんは席に着くなり言った。あ、冷めちゃうから食べて食べて、と私にフォークを手渡してくれる。3月の全国大会を前に今日明日で県大会があって、今日は予選の予選だと教えてくれた。県内で150人程エントリーしていて今日の予選で半数に絞られる。そして明日の予選決勝で来月の地方予選に行けるメンバーが決まるらしい。

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