おかしな国のアリス

◇世界は

「女王…!!
あなた!!なんということを!!」
腹部から血を流すアリスの上半身をもちあげ、白兎が叫ぶ。
その声は広いこの部屋中を走った。
「ふ、ふふ」
黒く光る銃を力無く右手に持った女王が、生気の無い瞳で笑う。
アリスの血が、床を伝った。
「っ…アリス…アリスの時間を…」
白兎は片手でアリスを起こしたまま、もう片方で懐中時計を握りしめた。
「…」
眼を閉じて、強く念じる。
――止まれ、止まれ

…コチ
カチ
コチ
カチ
コチ…
――ここは、どこ?
カチ
コチ…
――あぁ、私…死んじゃったのか。
カチ
コチ
カチ…
――呆気なかったなぁ…私、結局なにもしてない。
あーあ。かっこわるいなぁ。
カチ
コチ
カチ
――死にたくないよ
コチ

カチ ン

「……」
「時間は止められまして…?白兎?」
白兎はゆっくりとアリスの体を横たえた。
「ええ、お陰様で」
そっと、その蒼白い顔に手をそえる。
「…どうして?」
そえた手に、雫が落ちる。
「…どうしてこんなことをした!!」
「あら…ふふ、わたくしね、アリスが憎かったの。だって…アリスさえ生まれなかったら…ちゃんとした物語が戻ってきたはずなのに!」
「嘘をつくな!!」
白兎が顔を上げると鋭い目で女王を睨んだ。
「嘘ですって…?
わたくし、嘘なんかついていませんわ。
アリスが憎くて憎くてたまらなかった!」
「…戯言を。
内線の邪魔をしたのは今のアリスじゃない。
このアリスを殺したって、あなたの気は晴れないはずだ!」
「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!」
ドカ!!
爆発音が響いた。
「戯言は、あなたの方です…!!わたくしは…わたくしは」
「図星かあ?」
「!」
床から、第三者の声が。
二人が声のするほうを見ると、そこには倒れたままのチェシャ猫。
「…チェシャ猫?」
白兎が呼ぶと、チェシャ猫はむくっと起き上がった。
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