月夜の逢瀬~皇太子様と紫苑の姫君~


~*葉語帳*~

『今宵、貴方の隣で』ご愛読ありがとうごさいます。
世界観が平安京をモチーフにしているだけあって、出てくる言葉や設定が難しいという声があったので、未熟ながら解説を致したいと思います。
全然余裕で分かるよって方はとばしちゃって下さい!



*内裏・後宮について

内裏はもちろんご存知ですよね。帝がいる現在の皇居みたいなものと、お役所を兼ね合わせたようなものです。

後宮とはその中の一つ。后妃が住まう場所で、そこに勤める者は他の場所と違い全員女性でした。藤侍従や橘左少史も、そんな女性の一人です。

本編で彼女たちが勤める蔵司は、その後宮の中にある後宮十二司と呼ばれる機関ひとつ。天皇や皇后の衣服の管理などを任されていました。

蔵司の構成員は以下の通り。

 尚蔵(定員1名、蔵司のトップ)
 典蔵(定員2名)
 掌蔵(定員4名)

名前は難しいですが、部長、係長、平社員みたいなイメージで良いでしょう(ざっくり)。

藤侍従と橘左少史は掌蔵。つまり平社員ですね。本編には出てきませんがあと二人、同僚がいるはずです。

和泉納言はその上、典蔵です。まあ本編では意地悪な上司とでも思っておきましょう。

それから、若干出てくる階位(従四位とか、正七位とかなどの言葉)についてなどですが、地位を表すものです。

数字が小さくなっていくほど偉く、同じ数字でも従より正のが高いです。

つまり、一番偉いのは正一位、次が従一位、正二位、従二位、正三位……というようになっているのです。

藤侍従のお父さんは従三位。かなり偉い方の部類にはいります。


*暮らしについて

主人公である藤侍従は、女房、つまり宮仕えをしていて自分の部屋が与えられている女性です。女房の生活について解説します。

まず、着ているものですが、女房は内裏にいるときは正装である十二単を着なければなりませんでした。

本編で出てくる唐衣(からぎぬ)という言葉は、その十二単の一番上に着る豪華な色や模様のついた上着のことです。

女房さんたちは寝泊まりするための部屋、房と呼ばれている場所を与えられていたのですが、藤侍従のように外から通っていた方もいたそうです。

ちなみに移動手段は牛車。牛がひく馬車のようなものです。十二単を着た女の人が歩いて出勤するなんて不可能ですからね。

それから、これは女房さんに限らずこの時代の人なら全てなのですが、生活する時間帯は今とはかなり異なっていました。

物語の冒頭で、太陽がもうすぐ暮れそうな時間、つまり午後五時頃になったので家に帰れないといっていた藤侍従ですが、違和感を感じた方も多いのではないのでしょうか。

今では学生さんであっても、帰りは7時8時をまわるのが珍しくない時代ですが、この時代は違いました。

起きるのは夜明けとともに。つまり午前4時前には起きていて、出勤して帰るのは日が中天に昇りきる頃、つまり正午には終業しているのが普通なのです。

現代と違い電気もなく、蝋燭も高価な時代です。生活が自然に深く根付いていたのでしょう。


*通い婚について

この物語のキーワード、通い婚についてです。

通い婚については諸説あるのですが、私がこの物語で採用しているのは『男が女のもとへ三晩続けて通ったら結婚した』というものです。

男は和歌を相手の家に送ることによって参る意思をつたえ、本人ではなく家族がそれに返事をするのが一般的です。

そしてやって来た男は玄関から入ることはせず、彼女の両親とは顔を合わせることなく直接相手の部屋に向かいます。

それが三日続いて、初めて婚約をしたことになり、小さな御披露目会が開かれることなどがあったそうです。

御披露目会といっても今ほど大々的なものではなく、婚姻届のようなものを役所に提出することもありませんでしたから、お互いの親族や近しい友人に知らせる程度でした。

また、この時代は重婚も許されていましたから、男はまたほかの女のもとへ三晩続けて通うことも可能でした。

女は相手がほかの女のもとへ通っていても、文句を言うことなど出来なかったようです。

また結婚といっても一緒に住まないことの方が多く、実家優先なようでした。

余りにも身分が違うと、男が女の実家ごとひきとって一緒に住むこともあったようです。


*家について

この場合の家とは住んでいる建物のことではありません。家系や実家をさしています。

11、12ページあたりで、音人様に「実家は藤波家だったか」と聞かれた弥生は、「それは父の実家でございます」と否定しています。

今の感覚では、自分の実家が必ずしも母方であるとか、そんな感覚は薄いと思います。しかしこの時代は、実家というものは母方の家系を指すものだったのです。

通い婚の説明でも挙げましたが、この時代の結婚は同居はせず、女性はそれまでと同じ家に住み男性を待つのが一般的でした。生まれた子供も同じように女性の実家で育つことになります
(両親が同居していた弥生の場合は例外ですが)。

そして、いくら父方の家の位が高くとも、母方の家が没落していれば、その子供も没落した家の者という目で見られていたのです。

特に女房なんかは、実家によって地位が決まってしまう節もあり、そんな背景を含めて、繁栄している藤波家の名前を出された弥生は「それは父の実家でございます」と否定したのでしょう。

ちなみに、私が作中で出している家の名前は全てフィクションですので(もしかしたらあったのかもしれませんが)、悪しからず。



*その他の言葉の意味

渡殿……渡り廊下のようなものです。中庭に面した吹きさらしのものを指しました。

飛香舎……内裏の建物の一つです。

朝餉……朝御飯のことです。同じく夕餉(ゆうげ)は夜ご飯。

沓脱……玄関です。くつぬぎと読むので、そのまま、くつを脱ぐところ。

更衣……帝の着替えを手伝う女官のことですが、お手つきの女官がなることが多く、側室のような意味合いでした。

牛飼い童……牛車に付き添って牛の世話をする者のこと。この時代の大人の男が被る『烏帽子(えぼし)』(よく絵巻物で見る頭の上の黒いやつのこと)を被らないので『童』と呼ばれてはいるが、必ずしも子供のというわけではありません。





私も調べただけなので、間違っているかもしれませんが、少しでもお役にたてればと思います。

この作品を書くにあたって調べたおかげで、日本史のテストで通い婚とかの問題が出たら完璧に答えられる自信がある作者です。笑

他にもわからないことや単語、矛盾点などあれば遠慮なくお申し付け下さい!


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