ストロベリー・キス

私が務める保育園までは、歩いて5分ほど。私も妹もお世話になった保育園で、勝手知ったると言ったところだ。

園長先生を始め私が園児だった当時の担任の先生方もいて、とてもリラックスした気分で仕事をさせてもらっている。とは言っても失敗も多くて、怒られることも多々あるけれど。

大好きな子どもたちに囲まれて過ごす時間は、私にとってかけがえのないものだった。

お気に入りのリュックを背負い元気よく「行ってきますっ!!」の挨拶を済ませ玄関を出れば、いつも通りの光景。

徹兄も隣の家の玄関から姿を表した。

「よぉ美玖、おはよう。相変わらず時間通りだな」

くっきり二重の大きな目が、笑うとトロッとタレ目になるこの瞬間が好き。

「徹兄、おはよう。ってことは、徹兄も時間通り正確ってことでしょ。仕事がある日は毎日会うんだし」

「おっ、そうだな。美玖って頭いいなぁ」

そう言いながら近づいてきて、私の頭をポンポンと撫でる仕草が好き。

「俺の次になっ」

からかうようにそう笑って180cm以上ある背を屈めながら私の顔を覗き込むと、なぜだかいつも真剣な眼差しに変わり、「じゃあ、行ってくる」と甘く呟く唇が大好き。

そしてその言葉と唇は、まるで呪文のように私の脳と目に焼き付いて、消えなくなってしまうんだ。

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