ひとりの夜

年が明けたら一度ランチでも行こうと約束して、手短に電話を切る。
だって彼女には今から子供たちのサンタになる大事な使命があるんだし。
私もそろそろ今日の終わりを告げようとする時計を気にするのが嫌になってきたし。
もう、ゆっくりお風呂につかって、さっさと寝てしまいたい。


勢いよく注ぎ込まれる水音を聞きながら、ゆっくりと衣服をはいでいく。
目の前の鏡に映しだされるのは、若いころのピチピチとした質感は失われた張りのない身体。
もう、そろそろ、考えなくちゃいけないんだろうか…。
いつが終わりで、いつが潮時だとか、自分で考えようにもどうしてもうまくいかない。

そうやって何年も過ごしてきた。
いっそのこと、この関係を始めたあの人が、二人の終わりも告げてくれないだろうか。
身体を重ねる度に、底なし沼に沈んでいくように、あの人に浸食されて抜け出せなくなった私には、この関係から這い出す手段が思い浮かばない。


軽くシャワーを浴びて、少し熱めのお湯に身体を沈める。
これも、あの人に浸食されて慣らされた。
お互いを舐めつくして、汗をにじませた行為の後に、いつもお湯をはって私を綺麗に洗ってくれる。
入った途端に赤くなるほど熱めのお湯。
その色づいた皮膚を満足気に眺めながらゆっくりと浸かり、その後にはキンキンに冷えたビールで喉を潤す。
そんなことが、いつの間にかあの人がいない夜でも私の習慣になった。

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