ひとりの夜
そろそろ今日という日が終わっただろうか。
時計のない浴室で、それを望みながら頭をガシガシと色気もなくタオルドライしていると。
―ピンポン、ピンポーン
独特なチャイム音が鳴り響く。
え、これって…うそ。
合鍵を持っているあの人の、「今から入るよー」っていう合図のような二回慣らされるチャイム。
他に訪ねてくる人もいなければ、こんなチャイムの鳴らし方をする人も知らない。
慌ててタオルを体に巻き付けて廊下にでる。
「ど、したの?」
軽く息を弾ませながら、両手に持っていた紙袋を玄関に下すあの人。
「あれ、誘ってる?」
口端を上げてニヤリと笑うその人は、訳が分からずに焦る私とは違って、憎らしいほど余裕だ。
「なに、いってんの」
「ちがうの?あ、じゃあ、すぐにデキるように準備中だった?」
ゆったりとした動作で後ろ手に鍵をカチャリとかけて、愉しそうに口元を緩めたまま靴を脱ぐ。
勝手知ったる我が家のように脱いだコートはすぐ脇のコート掛に無造作にかける。
私はといえば、半裸でお客様を家にあげるという状況に、全然対応できていない。
ポツポツと半渇きの髪の先から落ちる雫が、やけに冷たく感じられる。
「ほんと、なに、わかんな」
「さや、ちょっと黙って」
二人だけのときに呼ばれる名前は、私を従順にさせる。
チラッと手元の腕時計に視線を移して、少しホッとしたように視線をあげて私を捕える。