婚カチュ。
ガラスの部屋に息苦しい沈黙が漂った。
ブラインドは下りていない。
こちらからは見えないけれど、今日は桜田さんはいるんだろうか。
「わたしが好きなのは、広瀬さんです!」
もう一度はっきりと言うと、彼の切れ長の目が驚いたように丸まった。
「な」
「ごめんなさい」
頭を下げて、わたしは面談室を飛び出した。
フロアには誰もいなかった。
スタッフルームの様子はわからないけれど、確認している余裕はない。
「二ノ宮さん!」
追いかけてきた声に振り返ることができず、わたしはドアを抜け、エレベーターも待たずに階段を駆け下りた。
胸の奥で心臓が悲鳴を上げていた。