婚カチュ。
4 ◇ ◇ ◇
……鳴っている。
さっきからずっとかばんの中で電話がわたしを呼んでいる。
耳を塞ぎソファでうつぶせに寝ているといきなりレオの顔がドアップで映った。
「うぉん」
「うわっ」
あわてて飛び起きると愛犬は尻尾を振ってソファの周囲を回りはじめる。
「ほら紫衣ちゃん、レオもうるさくてたまらないって」
台所で洗った食器を拭きながら母親がわたしのかばんを一瞥する。
「さっさと出なさいよ。大切な用事かもしれないでしょ」
「……迷惑な用事だよ」