婚カチュ。
「あなたは、いったい何がしたいんですか」
低い声はなんとなく責めるような響きを孕んでいた。
「お付き合いしている男性がいるのに、別の男を好きだと言ったり、さらに別の男とホテルに入ったり」
客観的に見れば、わたしの行動はたしかに軽率かもしれない。
でも、すべては広瀬さんへの想いに起因している。
しかしそんなことは口に出さなかった。わたしは大人になろうと決めたのだ。
「……松坂とはなにもありません。好きだと言われたけどお断りしたので」
それだけ言うと、広瀬さんの目がちらりとわたしを見た。
彼がまとっていた険しい空気がいくらか和らいだように感じる。
「そう、ですか」
気が抜けたように肩を下げ、あらためてわたしに向き直った。
彼の涼しげな目が見定めるようにわたしに注がれる。息が詰まるような無言(しじま)に、ひたすら耐えた。