婚カチュ。


「それと、お相手の年齢についてです。現在のご希望が30歳以上、40歳未満ということですが、年上の方じゃないといけないんですか?」

「ああ、わたし弟がいますので、どうも年下だと頼りなく感じてしまうというか」
 

大学院生の弟の顔を思い浮かべながら答える。広瀬さんは冷たい目でわたしを見つめた。


「年上の男性でも頼りない方はいますよ。反対に年下でも頼れる男性はたくさんいるでしょう。年齢という枠組みだけで幅を狭めてはもったいないと思いますが」

「うーん、でもなぁ。年下ってだけで恋愛対象から外れるっていうか」
 

渋っていると、わたしのアドバイザーは作り笑いを浮かべた。ほくろのあたりが小刻みに動いている。もうすっかり見慣れてしまったけれど、彼が怒りをこらえているときの表情だ。


「もう何度目の確認になるかわからないんですけど、二ノ宮さんはほんっとうに結婚したいんですか?」
 

爆弾を前にしているような気分になりながら「したいです」と答える。
いつもならここでアドバイザーがため息をつくのだけれど、彼は質問を続けた。


「なぜ結婚したいんですか」

「え……」
 

突然の問いに一瞬、時が止まる。

 
――なぜ、わたしは結婚をしたいのか。
 

しんとした空気のなかで、広瀬さんの視線を感じる。
ひざの上で両手を握りしめ、わたしはうつむいた。

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