婚カチュ。



「わ、笑いませんか」

「笑いませんよ」

「……怒らないですか」

「怒りません」
 

子どものように顔色をうかがうわたしに、いちいち丁寧な言葉を返してくれる。

厳しくて恐いし、お世辞も言わない顔がいいだけの婚活アドバイザーは、サービス業には明らかに向いてなさそうだけれど、彼は絶対に心にもないことを言ったりはしない。

桜田さんのお墨付きという保証があるせいか、短期間でわたしはずいぶん広瀬さんのことを信頼していた。


「こ、子どもがほしいんです」
 

希和子になら難なく言えることなのに、いま口にするのはどことなく気恥ずかしい。吐露する相手が異性だからだろうか。


「パートナーうんぬんとかよりも、とにかく、自分の子どもがほしくて。できればふたり。それで家族4人で幸せな家庭を築きたいんです」
 

ふいに涙がこぼれそうになった。突然湧き出した感情に自分で戸惑う。
不安と期待と、愛情と孤独が入り混じったような、複雑な感覚だった。

下唇を噛んでうつむく。

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