婚カチュ。


「……個人的な意見ですが、僕は男性の頭髪にそこまでこだわる必要はないと思うんです」
 

広瀬さんは虹彩の大きな切れ長の目を閉じてはゆっくり開く。


「いまや増毛や薄毛の治療法が積極的に研究されてますし」

「ええ、わかってます。些細な問題です」
 

でも、とわたしは顔を上げた。


「ハ……頭髪がさびしいと、どうしてもそこに目が行ってしまうし、見たら見たで変な罪悪感が生まれるというか」

「それは……慣れとか気の持ちようでは。頭髪と本人の人間性はまったく関係ないですよ」

「ええでも、ハ……頭髪が心もとない方が今までまわりにいなくて、どう接したらいいのかわからないんです」

「珍獣じゃないんですから、普通に接すればいいでしょう」

「でも、子どもに遺伝するかもしれないじゃないですか。うち、父も祖父もふさふさで髪は豊富な家系なんです。だからどうしてもハゲはイヤっていうか……あ」
 

口を押さえるわたしを見て、アドバイザーは長いため息をこぼした。


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